ああ、ちょっと疲れたなあ。あそこの店で少し休もうか。
ヒロシとタカヒロは小さな商店の前に置かれた自販機の横に自転車をとめた。
店内には駄菓子や、冷やし飴など、何となく懐かしい気持ちになる商品が並んでおり、店主であろう70歳くらいの女性が優しく微笑んでこちらをみている。「こんにちは。この暑い中、ご苦労だね。」
ヒロシとタカヒロは冷やし飴を買って、店前のベンチに腰掛けた。夏とはいえ、周りは緑に囲まれており比較的ひんやりとしている。
さあ、これから一気に駆け登ろう!2人は店を後に自転車にまたがった。
そのとき、後ろにいたタカヒロがヒロシの自転車をみて声を上げた。「ヒロシ!タイヤの空気が減ってるぜ?」。そう、空気の減った自転車での走行はとても危険なのだ。特にツーリングでそこそこのスピードを出す場合や山道カーブを繰り返す際に、タイヤの空気が少ないなんてことはもっての外だ。
しかし、2人は空気入れを持っておらず、店の店主に尋ねてみた。「あのー、自転車の空気入れ貸して頂けませんか?」。店主は答えた。「ごめんね、うちには自転車がなくてね。空気入れも使うことがなくて置いてないの」。
2人が困っていると、別のサイクリング人がやってきて、ヒロシたちと同じように商店の店前に自転車をとめた。お互いに軽く挨拶を交わした。その人1人で走っているらしく、今日中にこの峠を越えるのだと。かなりのハードスケジュールに挑戦しているとのことだ。名前はケンジ。
ケンジもヒロシたちと同じように休憩に立ち寄ったらしい。店内から出てきたケンジの手には冷やし飴。ベンチに腰掛けて休憩しているケンジ。ヒロシとタカヒロが困っている様子に気が付いたケンジは、「どうしたん?」っ声をかけてくれた。
自転車のタイヤの空気が減って困っていることを伝えると、ケンジは笑みを浮かながら慌てることもなく落ち着いた様子で冷やし飴の入ったコップを口元へ傾ける。それから、ズーって音を立て、最後まで飲み終えるまで5分くらいの時間が過ぎたころだろうか。ケンジはゆっくりと立ち上がり、自分の自転車の方へ行き、何やらサイドバッグを探り始めた。
出てきたものは何やら小さな機械。ヒロシとタカヒロは不思議そうに見ていたが、ケンジは相変わらず落ち着いて余裕な様子でヒロシの自転車に向かった。
「いいかい?」ケンジはヒロシに一声かけた。
「う、うん」ヒロシは何だか分からないがケンジの余裕な様子に押されて、そう返事せざるを得なかった。
次の瞬間、なんとヒロシの自転車のタイヤには空気がいっぱいに!ヒロシは何が何なのか全く分からなかったが、「ありがとう!」とケンジに伝え、1200円分もの駄菓子を買ってお礼な手渡した。
ケンジもまた「ありがとう!おれ駄菓子大好きなんだ!峠の途中で食べるよ!」と言って、走り去って行った。
ヒロシとタカヒロはまだよく分からない様子でポカンとしていたが、まあタイヤの空気がいっぱいになったことに喜びを感じながら再出発した。
‥一年後。。
ヒロシとタカヒロが家の近所のスーパーで買い物をしていると、突然、声をかけられた。ケンジだ。お互いに、あの時はありがとう!から始まり話が盛り上がり、飯でも行こうとなり、その日の晩に居酒屋に行き、互いにツーリングの話や自転車の話はもちろん、それぞれ身の上話なんかでも盛り上がり、すっかり3人は意気投合。また会う約束をして、それぞれLINE交換をして楽しげに帰っていった。
3人のグループLINEでは、ツーリングチームを作ろう!もっと仲間を集めよう!って盛り上がっているよう。
充電式かあ。旅先でコレあれば助かるなあ。よし、一つ持っておこう。